研究概要 |
コカインやフェンサイクリジンは急性および慢性使用により幻覚妄想状態が惹起され特に慢性乱用状態では精神分裂病に類似の精神症状が出現することが指摘されている。動物においても慢性投与により行動感作が出現する。従って薬物依存の精神病状態の病態生理機構を検討する上で行動感作における脳内神経系の伝達異常を検討することは薬物依存の病態を検討する上で重要である。そこで我々は脳内に広範に分布するアミノ酸神経系に注目しその受容体およびサブユニットの変化の有無を検討した。ラット(SD系雄性)にコカインおよびフェンサイクリジンを2週間慢性投与(1日1回腹腔内投与)し行動感作が出現した後、イオンチャネル型および代謝型グルタミン酸受容体サブユニツト、GABA(A)およびGABAB)受容体サブユニットのmRNA量の発現変化などを検討した。その結果、 1)コカインの急性投与1時間後に海馬においてNR1 snbunit mRNA量が増加し、慢性投与においてはNR1 subunit mRNA量は線条体において減少し、海馬で増加していた。 2)コカインの急性投与1時間後に皮質および海馬においてα1,β2,β3、γ2サブユニットmRNA量の減少を認め、慢性投与において皮質および線条体でGABA(A)受容体β3サブユニットmRNA量の減少を認め、側坐核や海馬、視床においてGABAB(1)サブタイプmRNA量の増加を認めた。 3)フェンサイクリジン投与では、急性投与で皮質下のmGluR5サブユニットmRNA量の減少を認め、慢性投与で皮質のmGluR2とmGluR4サブユニットmRNA量の減少がみられた。 以上から、コカイン投与による精神症状の出現の背景には、皮質や海馬、線条体を中心に興奮性および抑制性のアミノ酸神経系の神経伝達の異常が確認された。またコカインとフェンサイクリジンでは自発運動量の増加が観察されるがその薬理学的、分子学的背景は異なることが推察された。今後薬物依存に対しこれらのアミノ酸神経系に作用する薬物による治療薬としての開発が期待された。
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