研究概要 |
平成12年度はうつ病の可能性があるSDS得点60点以上の老人216名全員の診断面接を予定したが,最終的に同意を得られ,診察できたのは119人であった。その中でうつ病と診断されたのは34名(28.6%)であった。さらに6名は6ヵ月後の再評価が必要とされた。 平成13年度は1)3集落にて「老人のうつ病の特徴と自殺予防」について講演し啓蒙活動をした。2)6名の訪問,DCR診断,再評価を行った。3名は治療や状況の変化によりうつ病は寛解しており自殺の危険性は消腿していたが,3名は引き続き観察が必要と判断された。3)この1年で5名の老人が自殺したが,5名の平成12年度のSDSはそれぞれ48,58,57,35,56点であり,すべて訪問対象から外れた老人が急激に自殺念慮が強まり自殺死亡したことがわかった。4)うつ病の可能性があるSDS得点60点以上の老人163名のなかで,SDS項目の自責感,不安・無燥感の得点が11点以上である93名を訪問,診断面接の対象とした。その中でうつ病は12名(22.6%)であった。 平成14年度は1)2集落にて「中高年のこころの健康」について講演し啓蒙活動をした。2)5名の訪問,DCR診断,再評価を行った。4名は治療や状況の変化によりうつ病は寛解しており自殺の危険性は消退していたが1名は引き続き観察が必要と判断された。3)この1年で2名の老人が自殺したが、2名の平成13年度のSDSは60点未満であり、訪問対象から外れた老人が急激に自殺念慮が強まり自殺死亡したことがわかった。 4)うつ病の可能性があるSDS得点60点以上の老人165名のなかで、SDS項目の自責感、不安・焦躁感の得点が10点以上である124名を訪問、診断面接の対象としたが、実際に訪問できたのは68名でその中でうつ病は3名であった。3名それぞれに対してかかりつけ医にうつ病の状態についての情報提供および処方例等を記した紹介状の提供を行った。 研究3年目では(1)地元スタッフとの連携がさらに密になったこと,(2)啓蒙活動が継続されており好評であること,(3)訪問・診断面接がスムーズに行われた,という点が進歩した。しかし,(4)診断面接を断られるケースが増えた,(5)急激に自殺念慮が出現した時にその変化に周囲が気づかず自殺死亡に至った点が,欠点として浮かび上がった。この研究自体が地方自治体や村民への啓蒙活動でもあるが,まだ啓蒙の不十分さを痛感し,啓蒙の対象として老人を介護する立場の人など,老人に直接関わる人に重点を置いて,うつ状態の兆候や,自殺念慮の兆候に気づくことができること,気づいたら村の精神保健スタッフに知らせること,そしてそれを治療に結び付けてゆくというシステムを作る必要があると考えられた。
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