研究概要 |
Prepulse inhibition (PPI)は人でも動物でも生じるが、統合失調症患者ではPPIの障害が起こることが知られている。嗅内皮質傷害ラットの統合失調症脆弱性モデルとしての妥当性を検討するために、このラットにおいてPPIの障害が起こるかどうかを検討し、さらに、隔離という環境ストレスがPPIにどのような影響を与えるかについても調べた。その結果、右側または左側の傷害により、手術4週間後のPPIは有意に減少した(ANOVA, P<0.01)。さらに、左側傷害では、隔離群はペア群と比較して有意にPPIが減少していたが(ANOVA, P<0.01)、右側傷害では、隔離群とペア群のPPIに有意差を認めなかった(ANOVA, ns)。これらの結果は、嗅内皮質傷害ラットが統合失調症脆弱性モデルとして妥当であることと、左側傷害の方が右側傷害よりも環境ストレスの影響を受けやすいことを示していると考えられた。次に、嗅内皮質傷害ラットにおけるPPI障害に対する、定型・非定型抗精神病薬の効果を調べたところ、どちらの薬でもPPIの障害が改善された(ANOVA, P<0.01)。このことは、嗅内皮質傷害ラットにおけるPPIの障害がドーパミン(DA)伝達と密接に関係することを示していると考えられた。 さらに、この嗅内皮質傷害ラットにおいて、DA関連行動と側坐核におけるmethamphetamine (MAP)誘発DA放出との関連を調べた。その結果、嗅内皮質傷害後の14日目と28日目で、自発運動とMAP誘発運動の増加を認め、微小透析法を用いた検討により、後シナプス過感受性を介した辺縁系のDA伝達の変化が嗅内皮質傷害によるこれらの行動変化と関連していると考えられた。 われわれは、さらに、統合失調症モデルと考えられているphencyclidine (PCP)投与ラットにおける社会行動(social interaction : SI)とアルギニンバソプレシン(AVP)伝達との関連も調べ、PCP投与ラットにおけるSIの減少とAVP伝達異常が関連することを見出し、この結果は、統合失調症における社会性の障害の背景にAVP伝達異常が関与している可能性を示すものと考えられた。
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