研究概要 |
気分・不安性障害は遺伝的素因の大きい疾患であるが、どのような疾患感受性遺伝子によるものかは、いまだ明らかでない。また、治療的に両疾患に共通して抗うつ薬が用いられその有効性が多くの研究で確かめられている。しかし、現在用いられる抗うつ薬は、その有効性がいずれも6-7割と完全なものではなく、どのような患者にどの薬剤が有効かが明らかでない。セロトニントランスポーターは選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)をはじめとした抗うつ薬のターゲット分子であり、その脳内発現量に個人差が存在するため、これを生み出す機能性遺伝子多型の存在が想定されていた。最近Leschらのグループがセロトニントランスポーター遺伝子発現調節部位の機能性多型(5-HTTLPR)の存在を明らかにし、この遺伝子多型がヒトの性格としての神経質傾向と関連があることを報告した。この結果は、気分や不安と関連が深いとされる神経伝達物質セロトニンのシナプス部位での量の個人差が遺伝的に規定されていることを意味し、国際的にも非常に注目を浴び、現在までに数十を越える5-HTTLPRと性格や精神疾患との関連研究が報告されている。しかし、我々は、この5-HTTLPR多型を詳細に分析した結果、この多型はHeilsらが同定した2種類からなるのではなく、14種類からなる複雑な多型であることを明らかにした(M Nakamura, S Ueno, A Sano, and H Tanabe : Mol. Psychiat. 5, 32-38)。この多型を構成する各々の対立遺伝子を発現ベクターに組み込み、セロトニン作動性ニューロブラストーマ細胞に導入し、レポーター遺伝子活性を測定したところ、いずれの対立遺伝子もサイレンサー活性を示し、個々の値に有意差を生じた。これらを気分障害および不安性障害との疾患関連性の有無を検討したところ、関連性は否定された。
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