研究概要 |
本研究では、予期、注意、知覚、検索、意志決定、記憶といった認知に関連した大脳活動を反映した誘発電位の一つである事象関連電位と近赤外線分光法を用いて、精神分裂病の遺伝的高危険者における認知機能障害について検討を行った。事象関連電位のうち、特にoddball課題の低頻度目標刺激呈示後300msec前後に出現するP300成分が、精神分裂病の高危険者でも低下し、素質依存性のマーカーとなる可能性が報告されている。今回の事象関連電位解析では、近接する神経細胞が同期した電気活動をするとの仮定のもと、脳内の電気活動の空間的分布を推定するLORETA(low resolution electromagnetic tomography)を用いた。これは、脳内の発生源を求める際、おおよその粗い空間的解像度ではあるが、生理学的に意味のある解析結果の提供ができるとの利点を有している。対象は、18歳から40歳までの精神分裂病者10例(男性8,女性2)と、その同性の同胞10例、性と年齢をマッチさせた健常者10例で、平均年齢は健常者群29.0±3.2歳、精神分裂病群30.0±6.1歳、同胞群28.8±2.4歳であった。被検者は全て右利きで、分裂病者のうち4例は抗精神病薬による治療を受けていた。事象関連電位は、課題として聴覚oddball課題を用い、LORETAにより脳表上6222ポイントの電流密度を求めた。同胞群には、Schizotypal Personality Questionnaire(SPQ)を施行し、SPQ得点とP300成分の相関についても検討した。結果として1.同胞群のP300振幅・潜時は患者群と健常群の中間であったが、同胞群のP300振幅は健常群より有意に低下し、P300潜時は健常群と差がなかった。2.患者とその同胞のペア間での比較では、PzのP300振幅に、正の相関(r=0.70,p<0.05)が認められた。3.同胞群では、FzのP300振幅とSPQ得点との間に負の相関(r=-0.64,P<0.05)が認められた。4.LORETAによるCurrent densityの検討では、左前頭部のP300 current densityは、同胞群では健常者とほぼ同じであったが、患者群では同胞群より側方へ偏位していた。左右側頭部のP300 current dencityは、同胞群・患者群とも健常群より減弱していた。近赤外線分光法からみた高危険者の認知機能障害については、現在も検討中であるが、精神分裂病者と同様に、課題負荷に対する脳血流反応性が乏しい可能性がある。今回、特に事象関連電位により精神分裂病者とその同胞での脳内情報処理機能における共通の特徴が、示されたが、精神分裂病の生物学的脆弱性を明らかにしていくことは、将来的な精神分裂病の発症を予防する方法の確立のためにも重要で、今後も更なる検討が必要と思われる。
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