研究概要 |
精神疾患の発病脆弱性は胎生期-成長期の生理的、精神的ストレスによって形成されると想定されているが,過去のストレス負荷を認定することは極めて困難である。臼歯歯冠部のエナメル上皮は歯の発達期に被ったストレスによって活性が低下し、縦断面に線状の痕跡(Wilson band)や減形成を生じる(Ameloblast Stress Line,ASL)。私達は先ず,正常対照群におけるASLを検出した。これと平行して,胎生期-成長期の外傷体験と分裂病,うつ病,不安障害の発病との関連を検討すべくこれらの精神疾患症例でASLを検索中である。海外共同研究者であるDr.Brachaと提携して検索した結果,現在までに次のことが明らかになった。 1)正常対照群34例の同一個人で2本の第3臼歯におけるASLの一致度はピアソン相関係数は0.805p=0.000(one-tail)であった。 2)8例の外傷後ストレス障害(PTSD)は第3臼歯のASLが38例の正常対照群より有意に多かった。 【table】 3)分裂病5例は対照群21例よりも有意にASLが多かった(11.8+4.9 vs 3.3+1.1)。 4)これまでに,35例の精神障害症例の乳歯を入手した。対象者のほとんどは分裂病の診断を受けた。このうち,14例は新生児期に形成された異常なASLがあり,分娩の産道の障害(産科的合併症)を負ったことが示唆された。2例は出産前5日以内の生理的ストレス,2例は出産後6月以内の有害体験を示すASLが検出された。このように52%の症例で周産期のストレス負荷が認められた。 実験動物を使用した基礎研究においては、長期ストレス負荷、抗うつ薬投与によって、脳内に発現される転写物のクローニングを着手しており、全長配列の解析に取り組んでいる。
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