研究概要 |
精神分裂病の神経発達障害仮説に基づけば,神経系の発達に重要な役割を果たしている遺伝子の異常が,発達障害の原因の一つと仮定できる.われわれは,antisense oligoを含むgelを用いたアンチンス法を採用し,精神分裂病の動物モデルの作成を試みた.Methamphetamineによって発現が誘導されることが確立しているc-fos遺伝子のantisense oligoを含むgelを用意し,ラットの海馬あるいは線条体の両側に注入し,24時間および72時間後にmethamphetamine 6 mg/kgを腹腔内投与した.投与3時間後に脳を灌流固定しFosタンパクの発現をimmunohistochemistryで検討した.その結果,antisense oligo投与によって72時間後の時点でも,Fosタンパクの出現が抑制されており,この間antisenseの活性は持続していることが分かった.この予備的な結果を基に,さらに生後5日目の新生仔ラットの海馬および線条体に,c-fos antisense oligoを含むgelを脳内投与し,生後35日目にmethampbetamine 6 mg/kgの腹腔内投与によって生じる常同行動を検討した。しかし,これらの遺伝子の発現抑制によっても成熟期のドーパミン機能の行動上の亢進は認められなかった.このことは,Fosタンパクの発現を生後数日間海馬あるいは線条体で抑制しても,成熟期のドーパミン機能には影響がみられないことを示している.しかし,gel封入法は少なくとも目的遺伝子機能を数日間抑制するのには有効であることが確認された。今後BDNFやReelinなど神経発達に関連する遺伝子のantisense oligoの新生仔ラットへの投与が,成熟期のドーパミン機能への影響を検討する必要があると考えられた.
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