前脳基底部の代表的部位である側坐核(NAC)に対し、脳内透析法を用いてドパミン(DA)放出の指標である細胞外DAレベルの変化を調べながら、GABA_A作用薬であるmuscimolを投与し、摂食行動の変化と、Fos蛋白の発現部位からNACshell部の投射領域の検索を行った。2日間の絶食後では摂食に伴いNACshellの細胞外DAレベルは有意に上昇したが、muscimolの透析灌流による投与を行いながら摂食させると、用量依存的に有意なDA含量の上昇が認められ、摂食量も著明に増大した。Muscimol 100μM投与しながら摂食させると、DAレベルは200-300%の著明な上昇がおこり、薬物投与中止後も持続した。摂食量の増加はmuscimol 10μMおよび100μM灌流下では有意に増加していた。muscimol 100μMと同程度にNACshell細胞外DAレベルを上昇させると考えられるnomifensine 100 nMの局所灌流では、摂食量は有意に低下した。薬物投与から3時間の時点での脳切片上のFos蛋白の免疫組織化学的検索では、腹側淡蒼球、視床下部、腹側被蓋野や延髄の孤束核周辺に著明なFos陽性細胞が認められた。これらの結果から、muscimol投与による摂食量の増加とNACshell細胞外DAレベルの上昇は、muscimol投与によりNACのGABA神経が抑制され、投射部位である摂食中枢である外側視床下部や腹側被蓋野のDAニューロンが脱抑制された結果生じており、情動行動(摂食行動)はNACshellの出力神経であるGABA神経を抑制し、外側視床下部が脱抑制されることで発現した可能性が示され、NACshellが上位から情動に対し調節機能を持つことが明らかとなった。
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