前脳基底部の情動における役割を研究する目的で、側坐核(NAC)と腹側淡蒼球(VP)に対し、脳内透析法を用いてドパミン(DA)放出を調べながら、GABA_A作用薬であるmuscimolを投与し、摂食量と、Fos蛋白の発現部位から前脳基底1部の投射領域の検索を行った。2日間の絶食後、muscimolの透析灌流による投与を行いながら摂食させると、NACでは著しいDA放出の上昇が認められ、摂食量も著明に増大した。薬物投与から3時間の時点での脳切片上のFos蛋白の免疫組織化学的検索を行ったところ、腹側淡蒼球、視床下部、腹側被蓋野や延髄の孤束核周辺に著明なFos陽性細胞がみとめられた。特に、視床下部では摂食中枢とされる外側野に多数のFos発現が認められ、このFos陽性ニューロンは、摂食ペプチドの一つであるオレキシンの抗体を用いて二重染色を行うと陽性反応を示した。これらの結果は、NACshell部へのmuscimol投与が、視床下部摂食中枢に分布するオレキシン神経の脱抑制を起こし摂食行動が発現したことを示し、前脳基底部のGABA神経投射が視床下部摂食行動発現機序を上位から抑制しているという摂食調節機構の存在が明らかとなった。 VPへのmuscimol投与においては、視床下部内側領域が脱抑制され、逆に摂食量は有意に低下したことから、VP内側領域のGABA神経投射は内側視床下部へ抑制的制御をあたえ、この抑制の解除はストレス反応の誘発や摂食量を下げる方向に影響することが推定された。 このように情動行動(摂食行動)はNACshellやVPの出力神経であるGABA神経を抑制し、視床下部中枢が脱抑制されることで発現している可能性が示され、前脳基底部が上位から情働に対し調節機能を持つことが示された。
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