近年、ラットの前頭葉の一部である内側無顆粒皮質は、霊長類の前頭連合野に対応し、注意機能に関連することが示唆されている。そこで、大脳皮質の中でも内側無顆粒皮質に焦点を当て、freely moving状態や注意課題遂行時の神経発火と脳波の記録を用い、事象関連電位発現における役割を注意・覚醒機能の観点より分析した。 平成12年度は、慢性記録電極を内側無顆粒皮質に留置し、freely moving状態にて神経発火と表面脳波とを同時記録した。そして両者の関連や青斑核神経発火活動との相関を解析することにより、内側無顆粒皮質の注意・覚醒機能への関与を示した。 平成13-14年度は、二音弁別oddball課題遂行中に神経発火やフィールド電位を記録し、事象関連電位との関連を解析した。記録された神経発火の活動上昇のピークは表面P100成分に対応し、皮質内のフィールド電位のP100成分も表面より有意に大きな振幅を呈した。これらの結果はラットの内側無顆粒皮質が刺激の弁別を反映する事象関連電位発現に関与していることを示唆した。 さらに、予告付き条件づけ課題遂行中における内側無顆粒皮質と事象関連電位発現との関連も検討した。freely movingの状態で、10KHzと5KHzの純音を1:1の頻度でrandomに呈示し、10KHz音(標的音)のみに対して、呈示1秒後に、弱いfoot-shockを床グリッドに与えた。1セッション中、音は平均14秒間隔で一時間呈示した。課題を一日おきに6回続けた。課題を重ねるとともに、皮質表面において、標的音に引き続きfoot-shock提示まで持続する陰性の事象関連電位が形成された。皮質表面陰性・皮質内陽性の電位差も出現し、内側無顆粒皮質が予告付き条件づけ課題時の事象関連電位発現に関与することが示された。この陰性事象関連電位は後頭葉や側頭葉では観察されず、前頭葉の機能を反映するものと考えられた。そして、この電位はfoot-shockを中止した後もしばらく消去されず、記憶に基づく覚醒レベルの上昇に関係することが考えられた。また、前頭葉内でも中部やや外側において反応は大きく、発生源は限局していることが示唆された。 3年間の知見より、前頭葉連合野は注意や覚醒に関連する脳波や事象関連電位発現に密接に関わっていることが示された。
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