赤血球の発生は複数のサイトカインに支配された複雑な過程である。コロニー形成法は個々のサイトカインの生理学的な重要性を明らかにしてきた。しかしCD34+細胞からin vitroで増幅され、且つ高度に純化されたヒト後期赤芽球系前駆細胞(CFU-E)の生化学的研究は最近ようやく端緒についたばかりである。我々や他のグループは、プライマリーの赤芽球系前駆細胞のシグナル伝達系は株化細胞や他種動物のそれと大きく異なることを示唆してきた。我々は、ヒト末梢血CD34陽性細胞の大量純化法をもとに、赤芽球系前駆細胞(CFU-E)への系特異的分化・増殖誘導を行ない、EPO惹起シグナル伝達機構の解析やアポトーシスの解析を行うに十分な細胞を確保する方法を開発した。これらの細胞を用いて、我々はstem cell factor(SCF)は、c-kit+/GPA+細胞をアポトーシスから防御すること、さらにこの経路はc-kitを介するSrc family kinaseの活性化とAKT活性化に依存することを明らかにした。さらに、ヒトの赤血球赤芽球系前駆細胞におけるLynの存在を明らかにした。これらの結果は、ヒト赤血球造血におけるSCF依存性の新規経路Lyn/AKTの存在を示唆する。同時に、ヒト赤芽球系前駆細胞に発現する新規転写因子ZNF317のクローニングに成功した。ZNF317は13個のKruppel-like zinc fingerドメインと一個のKRABドメインに由来するタンパクをコードする遺伝子で、4個のスプライシング産物を有し、そのmRNA発現は赤芽球系前駆細胞の成熟に伴って低下したことから、その増殖と分化に深く関わっているものと推測された。
|