研究概要 |
【目的】 造血幹細胞のクローン性異常による造血障害を示す骨髄異形成症候群(MDS)に対し、サイトカインレセプター遺伝子(G-CSFR, EpoR, c-mpl)をMDS細胞にレトロウイルスベクター(pMX)を用いて遺伝子導入を行い、MDS患者の減少した血球成分のサイトカイン刺激による回復の可能性を検討すると同時に、G-CSFレセプターにおける増殖抑制シグナルの検討を行った。 【結果】 (1)G-CSFレセプター(G-CSFR)遺伝子を高効率に導入したMDS細胞株(MDS-L)は、G-CSF添加刺激により好中球へ分化することが示された。臨床検体では分化誘導効果は認められなかった。 (2)EpoRまたはc-mpl遺伝子を導入したMDS-L細胞株および臨床検体ではそれらのサイトカイン刺激による分化誘導は生じなかった。 (3)G-CSFRの発現のないヒトリンパ球系細胞株CEMにG-CSFR遺伝子を導入したCEM-GRにおいては、G-CSFの刺激によりG-CSFRとJAK2のチロシンリン酸化が初期に生じ、次にチロシンリン酸化酵素(SH-PTP1)のリン酸化を認め、それに続きJAK2のチロシンリン酸化は減少した。 (4)G-CSFRの4つのチロシン残基を各々フェニールアラニンに置換したG-CSFRを作製した。野生型G-CSFRと4種類の変異型G-CSFRをCEM細胞に導入し、SH-PTP1のG-CSFRへの結合部位を検討した結果、Y729F G-CSFRを導入したCEM細胞ではG-CSFにより増殖増強効果が認められた。Y729F G-CSFRではSH-PTP1が結合せず、JAK2の増殖シグナルの抑制は生じなかった。 【考察】 G-CSFレセプターcDNAを遺伝子導入したMDS-L細胞株はG-CSFの刺激により分葉好中球へ分化したが、他のレセプターを遺伝子導入したMDS-L細胞株では分化誘導効果は認められなかった。これらの結果はMDS-Lがすでに骨髄系細胞への分化を方向付けられているためと考えられた。G-CSFRにおいてはG-CSFの刺激によりリン酸化されたG-CSFRの729番目のチロシン残基にSH-PTP1が結合し、JAK2の脱リン酸化を起こすことにより、細胞増殖を制御していることが明らかにされた。
|