急性骨髄性白血病の約20%に認められるFLT3遺伝子の部分的なtandem duplication(FLT3/ITD)は、臨床的に、初診時末梢白血病細胞数と強い相関関係を有し、独立した新たな予後不良因子であり、この遺伝子異常が白血病細胞の増殖機構に深く関与していることを示してきた。本研究においては、FLT3遺伝子異常と活性化機構の関連を検討した。まず、我々は、傍膜貫通(JM)領域のITD変異以外にキナーゼ領域における点突然変異が急性白血病症例の約7%に存在し、その変異がFLT3分子の恒常的活性化をもたらし、IL3依存性細胞株32Dに発現させることにより、32D細胞をトランスフォームさせることを明らかにした。次に、FLT3分子の活性化におけるJM領域の役割を明らかにするために、JM領域のITD、欠失、点突然変異FLT3分子を作製し、その活性化機構を検討したところ、JM領域は二量体形成において重要な役割を果たし、また、野生型JM領域はリガンド非存在下におけるFLT3分子の自己活性化能を抑制していることを示唆する結果を得る一方、ITDや欠失変異体においては、その長さ、部位に関係なく二量体を形成し恒常的活性化をもたらしていることが明らかとなった。また、これら変異FLT3分子を32D細胞に発現させると、MAPK、STAT5、SHCなどのシグナル伝達分子の活性化が同様に認められた。また、FLT3発現32D細胞は、G-CSFによる成熟好中球への分化が抑制されているが、PKCモジュレーターと分子シャペロン阻害剤の処理によって、G-CSFによる分化能が回復されることを見出した。更に、変異FLT3遺伝子トランスジェニックマウスの作製を施行中であるが、発現F1マウスは不妊傾向にあり、現在数種類の発現ベクターを用いることにより、発現量を調整し作製・樹立にむけ継続実験中である。
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