【対象】 成人T細胞性白血病(ATL)の細胞株9種類(MT1、MT2、HUT102、OKM3T、F6T、K3T、Oh13T、S1T、SU9T01)、15例の慢性、急性、リンパ腫性ATLの末梢血、またはリンパ節より抽出したDNA、RNAを用いて、遺伝子異常を検討した。正常対照として正常人リンパ球、陰性コントロールとしてK562細胞を用いた。また、蛋白発現の研究では11例のリンパ腫性ATLのリンパ節を検討した。対照として正常人およびATL以外のリンパ腫患者のリンパ節を検討した 【結果】 1.DNAの異常:PCR法を用いてp14/ARF遺伝子DNAの欠失を調べた。細胞株OKM3Tで欠失していた。臨床検体でも検討中である。 2.RNAの異常:RT-PCR法を用いてp14/ARF遺伝子の発現を調べた。細胞株OKM3Tで発現がみられず、S1Tでは発現が弱かった。プロモーター領域のメチル化をmethylation specific PCRで検討中である。臨床検体でもRNAの発現を検討中ある。 3.p14/ARF蛋白発現の検討:臨床検体でp14/ARFの蛋白を発現していたのは1例のみであった。他のリンパ腫でも発現していなかった。p14/ARFの下流に位置するMDM2やp53蛋白の発現とp14/ARF蛋白の発現は相関が見られず、また悪性度による有意差も認められなかった。 4.p53蛋白高発現の症例で遺伝子変異を検討したが、検索した範囲では異常は認められなかった。 【考察】 ATLでは一部の細胞株でp14/ARFのDNAの欠失、RNA発現の低下が認められたことから、ATLにp14/ARFの異常が関与している可能性が示唆された。また、殆どの臨床検体でp14/ARFの蛋白発現は認められなかった。これらの検体でRNAが十分発現しているとすれば、translation不良、または速やかな蛋白分解などが考えられる。また、MDM2にはp14/ARF以外の制御機構が存在すると考えられる。多数のATL臨床例でp14/ARFの関与、予後などをを解明する必要がある。
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