本年度は、各種増殖性糸球体腎炎における、糸球体上皮細胞の形質転換を免疫組織学的に検討した。この目的で、膜性増殖性糸球体腎炎(MPGN)13例、IgA腎症(IgAN)10例、紫斑病性腎炎(HSPN)4例及び対照として糸球体病変を認めない血尿単独例(CTRL)6例を対象に、糸球体における転写制御因子(WT1、Pax2)の発現を免疫組織学的に検討した。上皮細胞各種骨格蛋白(Vimentin(以下Vim))、メサンギウム細胞骨格蛋白(alpha smooth muscle actin(SMA)、caldesmon(CLD))、内皮細胞マーカーおよび各種浸潤白血球マーカー(CD45、CD3、CD15、CD11b、CD68)の局在もあわせ検討した。CTRL群では、足細胞(P上皮)及び一部のBowman嚢上皮細胞(B上皮)核にWT1発現が、B上皮核にPax2発現が観察された。IgAN、HSPNでは、CTRLと同様の転写因子発現の他、管外増殖病変でWT1、Pax2の発現が観察された。MPGN及び一部のHSPNでは、CTRL群と同様の各種転写因子発現に加え、管内領域にWT1の細胞核発現が多数観察された。各種細胞骨格蛋白および白血球マーカーとの2重染色および連続切片による検討により、WT1は浸潤マクロファージおよびメサンギウム細胞に発現していることが確認された。管内増殖病変を伴わない腎糸球体において、WT1、Pax2の発現は、通常P細胞、B細胞や管外増殖病変など上皮性細胞のみに限局しており、管内領域(メサンギウムおよび内皮細胞)での発現は認められなかった。MPGNなど管内領域の強い増殖を呈する増殖性糸球体腎炎においては、メサンギウム細胞や浸潤マクロファージにもWT1の発現が強く認められ、これら管内非上皮性細胞の形質転換を示唆するものと考えられた。 これらの結果は、第35回アメリカ腎臓学会で発表した。
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