各種糸球体疾患の管外病変における、上皮細胞の形質転換を免疫組織学的に検討し、あわせて糸球体破壊の過程との関連を検討した。この目的で、巣状糸球体硬化症(FSGS)36例および半月体性腎炎(CrGN)45例を対象に、腎生検標本の連続切片を用いた酵素抗体法により、各種cytokeratin(以下CK)及び各種転写因子(WT1、Pax2)の発現を免疫組織学的に検討した。正常対照(CTRL)群として、腎生検上異常の見られない顕微鏡的血尿患者10例についても同様の検討を行った。CTRL群糸球体上皮細胞の骨格蛋白発現に関しては、壁側上皮(Bowman嚢上皮(以下B上皮))の一部に各種CK発現が見られた。CK polypeptide別にその発現を見ると、B上皮に発現しているCKはCK8、CK18、CK19のみであった。また、各種転写因子発現に関しては、臓側上皮(足細胞(以下P上皮))にWT1の発現が、またB上皮にはWT1、Pax2の発現が観察された。FSGS 36例の検討では、正常係蹄の殆どではP上皮、B上皮のCK発現様式および転写因子発現様式はCTRL群と同様であった。FSGS初期の管外増殖巣に一致してCK8、CK18、CK19の発現とPax2の細胞核発現が見られたが、一部(6例)では、光顕上正常構造を呈する係蹄P細胞に異所性のCK8、CK18、CK19およびPax2発現が見られた。これらの病変で観察されたCKおよびPax2発現は、いずれもWT1の減弱を伴っていた。以上より、FSGSの発症過程で、糸球体P上皮は、Pax2発現とCK発現及びWT1現弱を伴う形質転換をきたし、管外増殖に到る過程で重要な役割を果たしているものと思われた。CrGNの管外病変では、主に細胞性半月体に一致して、Vim、CK8、CK18、CK19の発現と核におけるPax2の発現、WT1の弱発現が認められ、病期の進行と共に急速に減弱・消失した。本症の半月体構成細胞の由来は明らかでないが半月体形成には、上皮細胞の形質転換を伴う増殖能獲得が関与しており、病期の進行と共に更に形質を変化させていることが示された。
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