研究概要 |
【目的】最近、PAF分解酵素(PAF acethylhydrolase)遺伝子の点変異(G994T)が日本人に発見され、変異を持つ人は酵素活性が低下していることが報告された。このような点変異を持つ人では、PAF濃度の上昇が容易に生じ、より強い炎症を引き起こす可能性が考えられる。そこで、O157病原性大腸菌感染による溶血性尿毒症症候群(HUS)の発症進展にPAF分解酵素の遺伝子変異が関与しているかどうかを検討した。 【対象と方法】O157病原性大腸菌感染によるHUS50例と、健常コントロール100例を対象に、末梢血白血球からDNAを抽出し、PCR法にてPAF分解酵素遺伝子変異(G994T)の検索を行なった。 【結果】ホモの遺伝子変異はなく、ヘテロの遺伝子変異(G994T)はHUS患者、正常コントロールのそれぞれ30%、31%に認め、変異の頻度に差はなかった。HUSにおいて、変異のある患者と変異のない患者の発症年齢、男女比に差は認めなかったが、ヘテロの変異のある患者の血中PAF活性は変異のない患者の50%に低下していた。変異のある患者は変異のない患者に比し、無尿期間が有意に長く(4.2vs10.9日,p=0.01)、透析を必要とする症例が有意に多かった(73vs37%,p=0.03)。変異のない患者は全例腎機能正常化したが、変異のある患者では2例が現在も腎機能低下を示している。 【考察】PAFは炎症前駆細胞の活性化や血管透過性亢進作用を有し、腎炎・ネフローゼ症候群の発症進展に関与することが明らかにされてきた。血中PAF濃度はPAF分解酵素により厳密に規定されている。私達は、ネフローゼ症候群におけるPAF分解酵素遺伝子変異の役割を検討し、遺伝子変異のある人ではPAFが蓄積し、ネフローゼ症候群が再発しやすいことを明らかにした(Kidney Int54:1867,1998)。今回のHUSの患児でも、PAF分解酵素遺伝子の点変異(G994T)を持つ人は酵素活性が低下していた。このような点変異を持つ人では、PAF濃度の上昇が容易に生じ、より強い腎病変を引き起こすと考えられる。これまでに、HUS急性期の患児の尿中PAF排泄は増加していることが報告されてきたが、今回の私達の研究結果はHUSの進行におけるPAFの役割を示唆している。 【結論】PAF分解酵素遺伝子の点変異(G994T)はHUSの腎病変の進展に関与する。
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