私どもはベロ毒素産生大腸菌(O157)感染に伴う溶血性尿毒症症候群(HUS)の腎生検組織の病理学的検討から、HUSの基本病態は微小血管障害であり、血小板の活性化、凝集、微小血管への沈着が、微小血管障害の形成に重要な役割をしていることを明らかにしてきた。血小板活性化因子(PAF)は血小板の活性化、凝集をおこす強力なメディエイターであり、PAF分解酵素(PAF acetylhydrolase)の遺伝子変異のある患者では、PAF分解酵素活性低下のため、PAFの蓄積が起こり、より強い炎症がおこり、HUSを発症、重症化しやすいと考えた。 【当初の研究計画】(1)PAF acetylhydrolase遺伝子変異の検索。(2)血中PAF acetylhydrolase活性の測定。(3)データ解析:これらのデータを解析し、PAF acetylhydrolase遺伝子変異、PAF acetylhydrolase活性、とHUSの発症、重症度との関係を明らかにする。 【研究経過・研究成果】O157病原性大腸菌感染によるHUS患者50例と、健常コントロール100例を対象に研究を実施した。PAF acetylhydrolase遺伝子のホモの遺伝子変異はなく、ヘテロの遺伝子変異頻度はHUS患者と正常コントロールに差はなかった。ヘテロの変異のある患者の血中PAF活性は変異のない患者の50%に低下していた。変異のある患者は変異のない患者に比し、無尿期間が有意に長く、透析を必要とする症例が有意に多かった。変異のない患者は全例腎機能正常化したが、変異のある患者では2例が現在も腎機能低下を示している。このように、PAF分解酵素遺伝子の変異はHUSの腎病変の進行に関与することを明らかにした。
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