虚血性急性腎不全モデルとして、(1)腎尿細管由来培養細胞を用いて細胞内ATPを欠乏状態とする、(2)マウス左腎動脈をクランプすることにより腎血流を遮断する、の2つを用いた。上皮細胞極性形成とその維持に重要な役割を演じているE-カドヘリン(アドヘレンス・ジャンクション)は、通常120kDa蛋白として検出されるが、ATP欠乏状態の培養細胞および虚血腎では80kDa(平成12年度に発見)および35kDa(平成13年度に発見)フラグメントとして検出され、E-カドヘリンは虚血腎にて多段階で分解されることが明かとなった。この分解には未知の酵素活性が関与している可能性が示され、現在その切断部分の同定および責任酵素の同定を進めている。また、膜蛋白であるE-カドヘリンはその分解に伴って細胞内に取り込まれ、それぞれ細胞外ドメインおよび細胞内ドメインにて切断されることが判明した。さらに平成12年度には、E-カドヘリン-カテニン分子複合体は虚血の進行に伴って解離することや、完全に解離した状態の細胞はもはや虚血ストレスから回復しないことを明らかにした。一方、タイト・ジャンクション膜蛋白であるオクルジンも分解を受け、細胞内に取り込まれたが、クロージンは虚血が進行しても細胞内に取り込まれることはなく、細胞表面上でその分布を変化させた(平成13年度)。今後はギャップジャンクションやデスモゾームでもその変化を検討する予定である。急性腎不全回復期にはSrcチロシンキナーゼ活性上昇がみられるので、温度感受性v-Srcを活性化することによりジャンクション蛋白の変化をみた(以下、平成13年度)。V-Srcキナーゼによりほとんどのジャンクション構成蛋白はチロシンリン酸化を受けたが、プロテアソーム阻害薬を作用させるとそのリン酸化反応は著明に抑制された。この過程でユビキチンリガーゼ活性を持つc-Cblが著明に減少することから、v-Srcキナーゼ活性上昇に伴う一連のリン酸化反応にプロテアソームを介する蛋白分解が重要な役割を演じていることが明らかとなった。現在これらの知見を複数の論文にまとめる作業に入っている。
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