研究概要 |
近年の研究により、Rhoキナーゼが血管トーヌスのみならず、血管肥厚、動脈硬化などにわたる病態生理活性を有することが明らかにされた。Rhoキナーゼは、高血圧自然発症ラットにおける高血圧の維持への関与や、細胞増殖にも影響することが示された。本研究では、Rhoキナーゼ作用を、腎血管トーヌス、細胞増殖、内皮機能等にわたる腎障害の進展の観点から検討した。 まず、正常血圧ラット(ウィスタ-京都ラット)の腎微小循環の基礎血管トーヌスにおけるRhoAの役割を検討するため、腎灌流圧による血管収縮反応のない状態(80mmHg)における、Rhoキナーゼ阻害薬(Y-27632)の作用を検討したところ、輸入輸出細動脈ともに拡張作用を示した。このことより、基礎血管トーヌスにRhoキナーゼが関与していることが明らかとなった。さらに輸入・輸出細動脈との比較では、輸入細動脈において、その活性がより強く関与していることが示された。さらに、アンジオテンシンIIによる微小循環への影響に対してY-27632は濃度依存性に拡張作用を示したが。その作用は、輸出細動脈に比し輸入細動脈の方が強力であった。このRhoキナーゼ阻害薬の作用を、腎灌流圧上昇に伴う血管収縮反応である筋原性収縮、ならびに高カリウムによる電位依存性カルシウムチャネル活性化による収縮作用において同様の検討を行ったが、その作用はアンジオテンシンII収縮に対する抑制作用と比して減弱していた。次に、Rhoキナーゼ抑制薬を用い、腎におけるRhoの病態生理作用を検討した。部分腎摘を高血圧自然発症ラットに施し、慢性腎不全モデルを作成した。その後Rhoキナーゼ阻害薬であるfasudil(3mg/日,腹腔内注射)を連日8週間投与した。その結果、血圧の上昇は抑制しなかったが(149・3から217・14mmHg)、蛋白尿の増加を抑制した(26・3から79・12mg/day vs.21・1から124・16mg/day)。さらに、腎病変として糸球体病変ならびに尿細管間質病変のスコアも改善を示した。すなわち、部分腎摘に伴う腎障害の進行において、Rhoキナーゼが活性化を受けることが明らかとなった。この活性化を抑制することが、腎障害進展抑制が発揮される可能性が示唆された。腎障害に対する、カルシウム拮抗薬などの従来の薬剤は降圧と関連することが重要な作用であるが、本研究によりRhoキナーゼは血圧に関連しない腎保護作用の存在が強く示唆された。
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