研究者らは挿入変異(insertional muatgenesis)により新たに発生した左右内臓逆位、嚢胞腎を有するトランスジェニックマウスの組織学的、分子生物学的検討を行い、左右決定遺伝子invのクローニングに成功した。 1.ヒトinv遺伝子:inv遺伝子の決定後、ヒトhomologueの遺伝子配列を確定。転写領域の全長のcDNAをクローニングすることに成功した。ヒト遺伝子構造上においてもankyr in配列が認められたため、細胞骨格蛋白である可能性が示唆された。内臓逆位の家系でのmutation検索を行い、一部の症例でmutationが特定された(未発表データ)。 2.抗invモノクローナル抗体:アミノ酸配列によりoligoおよびfusion proteinをもとにして、polyclonal抗体を作製しているが、主として腎尿細管の細胞質に染色性を認めた。この成績を背景に、ラットリンパ節法によりmonoclonal抗体の作製を行っており、fusion proteinを抗原として2回作製、一部のハイブリドーマ細胞での上清がWestern blottingおよび組織染色で陽性であったため、細胞のクローン化を行っている。 3.ラット腎での遺伝子発現:in situ hybridizationを施行。ラット腎では胎生15日より出現。尿細管の細胞内に局在がみられ、出生以後も発現が継続していた。 今後は、1)抗体の完成により発現、局在の検討を進めること、2)蛋白機能を明らかにするために細胞内遺伝子導入を行い細胞生物学的意義を検討する計画である。また、ヒトにおいては内臓逆位家系でのmutationの同定により、本遺伝子の体幹形成での役割を明らかにすることが可能と考えられるが、さらに腎の低形成、胆道閉鎖などの上皮細胞の異常に起因すると考えられる疾患群での本遺伝子の関わりを検討する。
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