胎児生体磁気計測を用いた胎児中枢神経機能の発達評価の第一段階として、胎児心磁図の心拍数変動周波数解析を行った。妊娠20-40週の正常胎児を対象としてR-R間隔変動をパワースペクトル解析し、低周波領域(LF)と高周波領域(HF)のパワー及びLF/HFを求めた。その結果、妊娠週数の進行に伴って交感神経活動(LF)の有意な増加が見られるのに対して、副交感神経活動(HF)は一定の水準に留まっているという所見が得られた。LF/HFも妊娠週数とともに増大し、交感神経が優位となることが示された。胎児心磁図を用いると時間分解能が良好であるため、高精度でR波のピークを検出でき、胎児のwell-beingなどの評価にも有用であることが示された。 第二段階として聴覚誘発胎児脳磁界測定法を試みた。胎児脳磁界は胎児心磁界よりもさらに微弱で10^<-14> Teslaのレベルとなる。これはほとんど現存するSQUID磁束計の検出感度限界に近く、しかも規則的に発生する信号ではないため加算処理も困難である。これらの問題を補う目的で、分解能<10 fT/√<Hz>の検出コイルと胎児の位置に合わせてヘッドを回転できるデュワを備えた胎児専用SQUID磁束計を開発した。母体腹壁上から0.5または1KHz、70-100dB、50msecの音響パルスを0.5Hzの頻度で加え、胎児頭蓋に接近させたセンサで脳磁界を8分間計測して加算処理した。この方法により、新生児では刺激から約120msec後に、幼児では120及び220msec後に脳磁界のピークが検出された。しかし、胎児では明確なピークの検出ができなかった。胎児を対象として聴覚誘発脳磁界を計測する場合はSQUID感度のさらなる向上に加え、胎児頭部に対するセンサ位置の設定、音響刺激法、データ後処理法などに改良の余地があると考えられた。
|