研究概要 |
母体が環境からダイオキシン類化学物質に暴露された際に,児の肝代謝・解毒能及ぼす影響を解明するため低レベルのダイオキシン作用をもつ1,2,3,4-TCDDを母体ラットに出産後に単回投与し,授乳仔ラットのCYP1A1 mRNAを経時的にcompetitive RT-PCR法により定量した.同時にCYP1A関連酵素のEROD活性を蛍光比色法により測定した.仔ラットの肝組織学的変化を光顕および電顕で検討した. (結果) 1.EROD活性への影響 EROD活性は日齢とともに増加傾向を示したが,日齢10で母体ラット活性の34%であった.TCDD投与でdose-dependentに新生仔ラットのEROD活性は上昇した.活性はTCDD100μmol/Lの投与で各々の日齢のコントロールの20.4倍(日齢2),19.3倍(日齢6),9.9倍(日齢10)であった.一方母体ラットは投与後10日でTCDD50μmol/Lがコントロールの1.2倍,TCDD100が1.3倍であった. 2.CYP1A1 mRNAの経時的変化 TCDD100群の新生仔ラット肝においてCYP1A1 mRNAは日齢6でpeakに達し,コントロールの約36倍となった.その増加は日齢10も同様であった.投与後10日目の母体ラット肝のCYP1A1 mRNAはコントロールの約3倍でそのレベルは新生仔より低値であった. 3.肝組織 TCDD投与母体肝では著しい脂肪滴の増加が認められた.新生仔では肝細胞の腫大を認め,電顕で軽度の脂肪滴の増加がみられた. (考察) 出産直後母体への1,2,3,4-TCDDの単回投与により,その母体の新生仔ラットのCYP1A1 mRNAは日齢10まで高度に誘導されることが明らかとなった.この変化は関連酵素であるEROD活性と平行した.このことより母体がTCDDに高度に暴露されると,授乳により新生仔はTCDDの慢性的な暴露をうけ,肝CYP1A1への影響は母体より長期にわたることが示唆された.
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