研究概要 |
#1 胎内における発達過程において、肺は他の臓器と同様、形態的な成長のみならず、機能的な発育を遂げる。胎児が子宮外で生育するために、胎内で必ず獲得しなければならない肺機能として、(1)生後の肺呼吸を確立するため肺表面活性物質(肺サーファクタント)の産生、(2)常に外界と接している気道には外来微生物が侵入する機会は多いため、感染防御機能(自然免疫能)に関与する物質の産生、が挙げられる。現在知られている4種類のサーファクタント蛋白の中では、サーファクタント蛋白B, Cが(1)に、サーファクタント蛋白A, Dが(2)の役割を担っている。サーファクタント蛋白Dは、主に末梢気道におけるinnate immunityに関係していると考えられている。現在まで、ヒト胎児肺におけるサーファクタント蛋白Dの時間的空間的発現に関する報告はない。今年度、我々は妊娠8-33週までの計19剖検例の肺組織を用いサーファクタント蛋白Dの発現を検討した。サーファクタント蛋白Dは、末梢気道において妊娠21週胎児9症例中5例で発現していた。親水性蛋白のSP-Dは、臨床で使用されるサーファクタント製剤(サーファクテン)に含まれていない。妊娠21-22週前後ではRDS以外に、抗生剤投与以外の肺炎予防に関しても対策が講じられるべきであると考えられた。 #2 母体保護法に記載されるいわゆる"生育限界"に関する解釈が、妊娠24週から妊娠22週に変更されて約10年が経過した。生育限界は、通常妊娠週数をもとに考えられている。生育限界と出生体重については、我が国において350グラム未満で出生した児の報告は認められなかったため、妊娠週数が進んでいても母胎外で生育するためには最低350以上の体重が必要ではないかと考えられていた。今年度、我々は妊娠23週289グラムで出生した症例を報告した。今後、生育限界を考える上で貴重な症例と考えられた。
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