研究概要 |
甲状腺ホルモンによる甲状腺刺激ホルモン発現抑制機構に関する研究を行い以下の成果を得た。甲状腺刺激ホルモンβ鎖(TSHβ)のプロモーターにおいてその転写開始点直下に甲状腺ホルモン(T3)とその受容体(TR)によるへの負の調節(Negative regulation)に必要な領域(Negative Regulatory Element、NRE)が想定されている(Chin,W.W.et al.(1993)Recent.Prog.Horm.Res.48:393-414)。私達はこの領域にヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)がT3依存性にTRを介して呼び込まれることを報告した(Sasaki S,et al.(1999)EMBO J.18(19):5389-5398.)。NREのDNA配列からhigh mobility group(HMG)蛋白が結合することが予想された。近年樹立されたTSH産生細胞株TαT1にgel shift assayおよびdegenerated primerを用いたRT-PCRによってNRE結合蛋白としてHMG蛋白の一つであるSox11を同定した。さらにT3とTRによる転写活性化の研究で頻用されるサル腎臓由来のCV1細胞においてTSHβ鎖の負の調節を観察する実験系を確立し、Sox11の過剰発現によってTSHβ鎖へのT3による負の調節は解除される事が分かった。一方、CV1細胞を用いた実験系の確立はそれまで困難であったTSHβ鎖の負の調節の解析を格段に容易にした。驚くべきことにこの系を用いて負の調節に必須な領域を再検討したところ、従来必須と考えられていたNREを破壊しても負の調節は維持されることが判明した。その後の解析でTSHβ鎖プロモーターにとって必須の活性化因子である転写因子Pit1とGATA2のどちらかあるいはその両方が負の調節の主要な標的であることが分かった。
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