現在、アメリカ合衆国において肥満者に対するリコンビナント・レプチンの臨床トライアルが進行中であるが、大部分の肥満者が高レプチン血症を伴う「レプチン抵抗性」状態にあると考えられるため、末梢からのレプチン投与が充分に奏功しない事例が少なからず報告されている。本研究はこのような実情を踏まえて、申請者らが独自に開発したレプチンのトランスジェニックマウスがレプチン高感受性マウスであることに着目し、そのマウスを用いて「レプチン抵抗性」発症の分子機構を明らかにすることを目的に検討を行っている。このトランスジェニックマウスに高カロリー食を与えることにより、このマウスに肥満を誘導できることを新たに見出した。脂質が44%での高脂肪食で飼育した場合、一時的に摂取カロリーが低下した後に、徐々に摂取カロリーが増加し、体重が増加するのに対し、脂質を60%とした場合には、一時的に摂取カロリーが増加するが、以後は摂取カロリーに変化が認められないにもかかわらず、体重が増加することを確認した。従って当初、両条件におけるレプチン抵抗性の発生機序が異なると考えられた。しかし、ob/obマウス、コントロールマウスそしてレプチントランスジェニックマウスをそれぞれ掛け合せて、レプチン血中濃度の異なる状況を作成し、高脂肪食負荷による肥満の誘導の程度を観察したところ、血中レプチン濃度の高低にかかわらず、高脂肪食で飼育した場合には同様に肥満が進行していくことが観察された。従って、高脂肪食は、レプチン抵抗性とは無関係に肥満を誘導する可能性が最も高いと考えてられた。しかしながら、高脂肪食による肥満誘導と同時にもたらされるインスリン抵抗性に対して、レプチンが生理的意義を発揮している可能性が残されており、今後インスリン抵抗性の程度など検討していく予定としている。
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