ヨードは環境中0.0001%しか存在しない稀少元素で、中枢神経系発育や全身代謝調節を司る甲状腺ホルモンの重要な構成要素である。ヨードトランスポータニナトリウム・ヨードシンポータ(NIS)は、甲状腺ホルモン合成の最初でかつ律速段階である、甲状腺細胞へのヨード取込を、能動的に行う分子である。NISは1996年に初めてクローニングされて一次構造が明らかとなり、分子解析が可能となった。しかし、3次元構造解析や発現調節などの情報は乏しい。そこでまず、ヨード濃縮障害におけるNISの構造と機能について解析した。 ヨード濃縮障害は、これまでに世界で22家系、37症例が知られていたが、本邦症例において初めてNIS遺伝子変異(T354P)を同定し、表現実験にて直接の病因であることを証明した。1/3の症例が日本人だが、うち7例でT354Pホモ接合性変異を同定し、他の3例でも別の変異を同定し病因として証明した。本邦症例の半数以上を解析したことになる。T354P変異は、外国症例にはなく、本邦では高頻度である。しかし、甲状腺機能低下症の程度、甲状腺腫の有無などの臨床像は極めて多彩である。これは、NIS機能を大きく修飾する因子が存在することを示す。更に、18人の患者を有するヨード濃縮障害の世界最大家系を解析し、新たなホモ接合性変異を同定したが、これらの症例では全く甲状腺腫がなく、本邦症例と臨床的な違いが明らかになった。さらにスペイン人兄弟、アフリカ系フランス人、九州在住日本人で新たな特異な変異を同定した。このように、ヨード濃縮障害症例の全世界の約半数の解析を行った。 NIS遺伝子導入による遺伝子治療は、^<131>I投与による放射線治療と総合させた集学的治療である。甲状腺癌のみならず、全ての癌にも応用可能である。乳癌細胞株でNISを強制発現させた株を樹立することに成功し、今後の治療研究への端緒を開いた。
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