GIP(gastric inhibitory polypeptide)は、糖質や脂質の経口摂取に伴い消化管から分泌され、膵β細胞のGIP受容体を介してインスリン分泌を促進する。GIP受容体欠損マウスに高脂肪食を摂取させても、野生型マウスで惹起される肥満は認めず、GIPは節約遺伝子(thrifty gene)として働くことを明らかにした。そこで、その分子機構を解明するため、まずエネルギー消費を検討した。その結果、GIP欠損マウスにおいて高脂肪食で飼育すると、3週後では明期で呼吸商が低下し、脂肪が効率よく燃焼されていることが明らかとなった。さらに、高脂肪食で飼育を続けると、GIP欠損マウスにおいて酸素消費量が亢進し、その詰果として肥満がきたしにくいことを明らかにした。GIP受容体欠損マウスと肥満モデル動物のobマウスを交配したダブル欠損マウスでも同様の結果を得られた。したがって、GIPシグナルの減少は、肥満・インスリン抵抗性を改善することを明らかにした。このようにGIPシグナルが減弱しているとインスリン分泌が低下し、GIPシグナルを活性化することによって糖代謝は改善する。一方、GIPシグナルが亢進しインスリン抵抗性が増大している状態ではGIPシグナルを遮断することが糖代謝の改善につながり、糖尿病の病態によってGIPシグナルの意義が異なることを明らかにした。 したがって、日本人など従来脂肪摂取の少ない農耕民族ではこのようなインクレチン作用が弱く、肥満は来たさないがインスリン分泌障害を主体とした糖尿病が発症し、欧米人など従来脂肪摂取が多い牧畜民族ではインクレチン作用が強く肥満を来たしインスリン抵抗性を主体とした糖尿病が発症することが考えられた。
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