(1)甲状腺分化癌に対する遺伝子治療: 12年度にサイログロブリンプロモーターでアデノウイルスの増殖に必須のE1A遺伝子を発現させることにより、サイログロブリン発現甲状腺分化癌で特異的に増殖するアデノウイルスを作成し、その単独での有用性を報告した。13年度には、そのウイルスと他の遺伝子療法-殺細胞遺伝子やサイトカイン発現アデノウイルスによる腫瘍免疫療法-との併用療法の効果を検討した。 (a)殺細胞遺伝子療法との併用では、同時投与の場合プロドラッグによる細胞死のため充分なウイルスの増殖がみられず併用効果は顕著でないが、増殖型ウイルスを遅らせて投与することにより明らかな併用効果が認められた。 (b)免疫療法との併用では、in vitroで増殖型アデノウイルスによるE1A発現がサイトカイン発現非増殖型アデノウイルスの増殖を誘導しサイトカイン発現の著明な上昇が観察された。in vivoではヌードマウスによる実験のためNK細胞しか誘導されないが、このような条件でも明らかな併用効果がみられた。免疫が正常な場合にはより強い併用効果が期待できるであろうことが推測された。 (2)甲状腺未分化癌に対する遺伝子治療: 高頻度に腫瘍抑制遺伝子p53に変異がみられる甲状腺未分化癌に対して、p53反応性プロモーターとCre-loxP systemを用いて正常p53を持たない細胞でのみ増殖するアデノウイルスを作成した。しかしこの方法は2種類のアデノウイルスを用いるので、in vivoでは共感染の確率が低く効果が不十分であった。そこでこの2種類のアデノウイルスの1本化を試みたが、p53反応性プロモーターがウイルス増殖に用いる293細胞において完全にsilentではないため、293細胞内でウイルス遺伝子の組換え・欠失が起こり、1本化は不可能であることが判明した。
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