研究概要 |
平滑筋細胞増殖の分子機構を検討することは、動脈硬化や冠動脈形成術後再狭窄の機序を明らかにする上で重要である。本研究では、静止期に同調培養した血管平滑筋細胞に、血清添加による増殖刺激を加えた後、経時的に細胞周期関連蛋白の発現量とその活性変化を検討し為その結果、増殖刺激後早期にCDK抑制蛋白(p57Kip2,p27Kip2)が減少し、引き続いてcyclin-D/cdk4,cyclin-E/cdk2活性が冗進し、Rb蛋白のリン酸化とE2Fの遊離が引き起こされていることが示された。増殖刺激後まずp57Kip2の蛋白量が減少し、それに伴いcyclin-D依存性cdk活性の亢進があり、やや遅れてp27Kip1の蛋白量の減少とcyclin-E依存性cdk活性の亢進が観察された。この間、Rb蛋白(p107,p130)のリン酸化が徐々に進行した。以上の結果から、CDK抑制蛋白、特にp57Kip2が細胞周期回転の制御機構の最上流に位置することが推測された。アデノウイルスを用いてp57Kip2を強制的にA10細胞に発現させると、増殖刺激によるp27Kip1の減少は抑制され、その後のcyclin-cdk活性亢進、Rb蛋白リン酸化も抑制された。以上の結果から、血管平滑筋細胞においてはp57Kip2減少が細胞周期回転の最初の引き金となっていることが明らかとなった。次に、p57Kip2の活性調節機構を明らかにする目的で、酵母を用いたTwo-hybrid法にてp57Kip2と結合する蛋白質の検索を行った。その結果、400以上の陽性クローンが得られ、現在それぞれについて遺伝子配列の決定、細胞内生理機能の探索を行っている。本研究により、血管平滑筋細胞の増殖機構についての新しい知見が数多く得られた。
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