研究概要 |
【背景及び目的】我々は,糖尿病状態の血管平滑筋細胞(VSMC)ではplatelet-derived growth factor-BB(BB)刺激によりp38 mitogen-activated protein kinase(p38)活性が亢進し,細胞増殖や遊走能,アラキドン酸遊離などに関与することを明らかにした.しかし,BB刺激に伴うp38の上流及び下流のシグナル伝達機構及び生物活性については充分に解明できてはいなかった.そこで,本年度はBB刺激によるp38活性化に対するsmall G蛋白とprotein kinase C(PKC)の影響及びその下流の他の生物活性に対する効果について検討した. 【方法】正常(N)とSTZ糠尿病(DM)の雄Sprague-Dawleyラット大動脈よりexplant法にてそれぞれVSMCを採取した.<1>VSMCをROCK阻害剤のY-27632(Y)とPKC阻害剤のGF109203X(GFX), PKCβII阻害剤CGP53353(CGP), PKCδ阻害剤Lotterilin(Lot), PKCδアンチセンス(δAS)で前処置後BBで刺激し,p38リン酸化をimmunoblot法で検討した.<2>VSMCをBBで刺激した後,超遠心法にて細胞を膜分画と細胞質分画に分離し,immunoblot法でsmall G蛋白とPKC isoformのtranslocationを検討した.<3>上記阻害剤とp38阻害剤のSB-203580(SB)でVSMCを前処理後BBで刺激し,コラーゲン産生に対する影響を検討した. 【結果】<1>BB刺激でリン酸化p38はNに比べDMで40%亢進しており,Yで軽度,GFXで濃度依存性に抑制された.さらに,p38リン酸化はCGPでは抑制を受けなかったが,Lotにより濃度依存性に,δAS添加で抑制された.<2>膜分画による検討では,NとDMにおいて共にBB刺激によりRacは変化しなかったが,RhoAは増加が認められた.PKC isoformでは,DMでβIIが膜分画で亢進していたがBB刺激では変化が見られず,NとDM共に膜分画でδが亢進しておりDMでより増強が認められた.<3>コラーゲン産生は,BB刺激でDMにおいてより亢進したが,YとCGP,SBでは両群とも影響を受けなかった. 【結論】VSMCにおいてBBによるp38活性化には,PKCδ及びRboAが制御していることが示唆され,特にDM状態ではPKCδによる関与が大きいことが示された.しかし,BBによるシグナル下流のコラーゲン産生にはp38は影響を及ぼさないことが明らかにさせた.
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