パラオキソナーゼ(PON-1)は、LDLおよびHDLの酸化を抑制して、動脈硬化抑制性に作用すると考えられている酵素である。正常人ではPON-1はHDL粒子上に存在していることが判明しているが、その活性およびHDLへの局在に関して、アポAIが重要な役割を果たすことが提唱されている。そこで、まずアポAI欠損患者における、PON-1の活性およびその局在、蛋白量について検討を加えた。アポAI欠損患者の血清をゲル濾過法にて各リポ蛋白に分画したところ、PON-1はアポAIが存在しないにもかかわらずHDL上に存在していることが判明した。一方、血清を超遠心法にて各リポ蛋白に分画したところ、リポ蛋白freeの分画に移行する比率が正常人血清と比較して大きいことが判明した。PON-1活性と蛋白量の比は全血清・HDL分画で検討したところ正常人と同等であったが、37℃で血清を孵置した場合の活性低下率はアポAI欠損症で正常人と比較して大きかった。以上より、アポAIのない状態でもPON-1はHDL上に存在しているが、その温度に対する失活抑制およびHDL上での存在安定化には、アポAIの存在が重要であることが示唆された。 一方、ヒトPON-1cDNAをコードする第二世代アデノウイルスの作成を行い、大量精製を終了した。このアデノウイルスを野生型のマウスに経静脈的に投与したところ、投与後3日目で血中のPON-1活性・蛋白量ともに、コントロールマウスのそれと比較して約12倍に上昇した。リポ蛋白に対する影響をゲル濾過法を用いて検討したところ、HDL分画が優位に上昇していた。現在、このように増加したHDLがマクロファージの泡沫化にどのような影響を与えるのか、またこのウイルスを動脈硬化症prone動物モデルに打ち込むことにより、動脈硬化を抑制する作用があるかどうかの検討を進めている。
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