研究概要 |
糖尿病母体からの新生児は奇形の発生が高く、その発生を抑制することが近年重要な課題となっている。器管の形成過程において、アポトーシスが重要な役割を演じることが知られている。近年アポトーシスを促進、抑制的に働く癌遺伝子が発見されてきたが、Baxはアポトーシスを誘導し、Bcl-2は抑制的に働くとされる。糖尿病における奇形の発生とアポトーシスの関与およびBax,Bcl-2の発現を検討した。 本年度は正常の器官形成期のembryoについて検討した。(主な器官形成期に相当する)妊娠第9,10,11日のrat embryoを取り出し、1)embryoからtotal RNAを抽出し、real time quantitative-PCR法によりBaxとBcl-2のmRNAを定量した。2)アポトーシスの検出はTerminal deoxynucleotidyl transferaseを作用させ、peroxidase標識抗biotion抗体を用いて免疫組織学的に検出した。3)Bax,Bcl-2の発現はBax,Bcl-2抗体を用い、免疫組織学的に検出した。妊娠第9-11日のembryoにおいて、Bax,Bcl-2のmRNAの発現がみられた。BaxのmRNAは妊娠第9-11日の間でほとんど変わらなかった。一方、Bcl-2のmRNAの発現は、妊娠第9日でもっとも低く、embryoの成長につれて増加した。その結果、Bax/Bcl-2の比は、妊娠第9日embryoにおいてもっとも高く、embryoが成長するにつれて低下した。アポトーシスは妊娠第9日の原始腸管、心臓形成域に強く生じていた。原始心臓が分化するにつれてBcl-2の発現が増加し、Baxの強い発現が見られるにもかかわらず,アポトーシスはほとんど見られなかった。前腸、中腸、後腸へと原始腸管が分化・発達している時も同様の所見がみられた。妊娠第10,11日目、器官が形成されるにつれて、アポトーシスは神経管、体節、眼胞、咽頭弓に認められた。それに一致してBaxの発現が認められた。しかしBaxとBcl-2が同時に強く発現している領域には、アポトーシスはほとんど認められなかった。
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