細胞コレステロール搬出にかかわるアポリポタンパク質レセプターの同定と解析のため、各種細胞株を用いた実験を行い、以下の成果を得た。 1)RAW264にはdBcAMP投与に伴い、新たなRNAと蛋白質の合成を経て特異的なアポAI結合部位とアポAI依存性のコレステロールとリン脂質を含むHDL形成を認めた。ABCA1mRNAとタンパク質は無処理細胞でも検出されたが、dBcAMPで約10倍に増加した。各種薬物のABCA1陰イオン輸送阻害能は、アポAI依存性HDL生成反応へ及ぼす効果と必ずしも一致しなかった。 2)THP-1はアポAI依存性にリン脂質のみを含むHDLを生成するが、PMA処理後には、コレステロールとリン脂質を含むHDLが生成された。ABCA1mRNAとタンパク質は無処理THP-1にはほとんど検出されず、PMAで発現が誘導された。 3)アポAI依存性HDL形成のない293由来のABCA1導入株のうち、低発現株ではリン脂質のみ、高発現株ではコレステロールとリン脂質の放出が認められた。特異的なアポAI結合は293には見られなかったが、ABCA1導入株には低発現株と高発現株の両方で検出された。 4)Tangier病患者で報告されたものを含む各種変異を導入したABCA1cDNAを293に一過性に発現させると、野生型ABCA1に比べアポAI依存性コレステロール放出は減少したが、リン脂質放出の減少は一様ではなかった。 以上より、RAW264にはAキナーゼで転写の活性化されるアポAI結合タンパク質が存在し、アポAI依存性HDL新生をもたらすと考えられた。ABCA1はこの過程に必要と考えられたが、得られた実験結果からは他の因子の関与も否定できない。HDL生成ならびにHDLへのコレステロール組み込みの有無には、ABCA1の構造、発現の程度や分布、細胞の状態等多数の因子の関与するものと推定される。
|