研究概要 |
高濃度の遊離脂肪酸存在下に培養された膵β細胞でのインスリン生合成を検討するために、0.52mMバルミチン酸(PA)存在下に経時的に培養し、生合成能の変化を検討した。高濃度PAは1時間の時点より、膵β細胞でのグルコース刺激下のインスリン生合成を有意に抑制した。しかしながら、プロインスリンmRNA含量やグルコースによるインスリン分泌能は影響を及ぼさなかった。なおインスリン分泌は16時間後には低下した。したがって高濃度PAはまずインスリン生合成を遺伝子の翻訳レベルで抑制し、その結果インスリン分泌を障害するものと考えられた。次に高濃度遊離脂肪酸により膵β細胞での発現が増強するPPARγによる影響について検討を行った。アデノウィルスの発現系を用いて膵ラ氏島にPPARγを強制的に過剰発現させたところ、グルコース刺激ならびに高濃度KCl刺激に対するインスリン分泌の抑制を認めた。一方、高濃度KClによるグルカゴン分泌には何ら影響も及ぼさなかったことから、この効果は膵β細胞に対する特異的なものと考えられた。遊離脂肪酸を産生する脂肪細胞には内分泌細胞との類似点が多く、種々の生理活性物質(TNF-α,レフチン,アディホネクチンなど)を血中に放出している。そこで脂肪細胞に人為的にインスリン遺伝子を発現させ「膵β細胞化」を試みた。興味深いことに、このインスリン遺伝子産物はGLUT4小胞内に発現し、かつ変換酵素furinの作用によりインスリンまで変換されることが判明した。そこでその系を肥満2型糖尿病モデルKKAyマウスの皮下脂肪に導入したところ、耐糖能の明らかな改善を認め、この効果は少なくとも2週間は持続した。脂肪細胞への膵β細胞機能の移入により糖毒性が解除され、膵β細胞自体の機能を改善することが期待される。
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