急性・慢性肝障害で代謝不全に至った肝不全の治療法として、肝移植による方法と人工肝臓による方法がある。いずれの場合も、要に応じて大量の肝細胞が必要であり、また肝細胞の機能を良好にかつ長期間再現させる接着基質の開発が重要であり、以下の検討を行った。 1. 肝細胞の増殖法の検討:移植肝細胞の増量を、増殖因子であるEGF、HSS、HGFなどの使用により検討したところ、移植肝細胞のBrdU値の上昇が確認され、ビタミンC合成酵素欠損ラットの生存率も向上した。 2. 肝細胞機能発現のための接着基質や、包埋法の検討:肝細胞は本来、何らかの基質に接着したり、基質内に安定化して良好な機能を発現する。そこで、接着基質として、生分解性多孔性担体(Degra Pol)、セルロース由来多孔性担体、アルギン酸ゲル包埋法などを検討した。Degra Polへの肝細胞接着は良好であったが、単位あたりの容積が大きく、移植肝細胞数を稼ぐには限界があった。セルロース由来担体は、孔径と内部構造も至適であり、人工肝のリアクターとして有用な機能が発現された。ゲルビーズ化肝細胞は腹腔内移植により急性肝不全モデルに有用であった。 3. 増殖活性を有する肝細胞の検討:初代肝細胞は通常分裂増殖活性を有しない。そこでラットの肝細胞の不死化を試みたが成功しなかったため、岡山大学第一外科(小林直哉博士ら)から、ヒト不死化肝細胞の提供を受け、基礎的検討を行った。凍結保存されたこの肝細胞は、解凍後良好な増殖能を再現し、マウスへの移植では腺腫様増大を示し、confluentな培養皿の細胞を部分的に除去してその再生能をみたところ興味ある再生状態を示した。機能の発現性の検討と、in-vitro、in-vivoの基礎的研究を継続する。
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