臨床の臓器移植では、免疫抑制剤、臓器保存、手術術式などの進歩により、移植初期には良好な成績を得られるようになった。長期生着が得られるようになった現在、最大の問題は慢性拒絶反応である。この慢性拒絶反応の機序を解明するため、研究代表者の米国での研究成果である動物実験モデルを用いて、各種の免疫学的manipulationを加え、慢性拒絶反応の変化を調べた。本動物実験モデルは、ラットの異所性心移植のモデルで、心移植100日後に慢性拒絶反応が発現し、病理組織像でその程度を判定するものである。この実験系を使い、免疫学的manipulationとして4種類の薬剤を用いて、細胞レベルで免疫経路をblockする方法を試みた。 予備実験により、本実験モデルで慢性拒絶反応を再現できることが確認できた。細胞浸潤の全くない、即ち、急性拒絶反応の全くない、純粋に血管内膜肥厚を主体とする小動脈の硬化性変化であり、慢性拒絶反応の病像を示した。この慢性拒絶反応モデルに、各種薬剤を投与し、慢性拒絶反応の有無、程度を検討した。FTY720とIPDの2種類は明らかに慢性拒絶反応を抑える効果が見いだせ、薬剤の用量依存性を検討するため、本実験を行った。この結果、これらの薬剤の移植後2週間だけの投与によって、移植後100日目の病理組織所見において血管内膜肥厚を主体とする小動脈の硬化性変化を、用量依存性に抑制した。シクロスポリンやプログラフなどの従来の免疫抑制剤ではこれらは抑制されなかった。たった2週間の投与により慢性拒絶反応を抑制する作用機序について検討したが、明確な結果は得られなかった。本実験の結果は臨床応用可能な慢性拒絶反応抑制法として、今後の発展が期待される。
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