Fas,FasLを介した細胞死による抗腫瘍作用の癌治療へ向けた基礎的研究

2001 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 12671144
• 研究機関: 東京大学
• 研究代表者: 武田 泰隆 東京大学, 医科学研究所, 助手 (40163422)
• 研究分担者: 螺良 愛朗 関西医科大学, 医学部, 教授 (90098137) ; 清水 本武 東京都医学研究機構, 東京都臨床医学総合研究所, 主任研究員 (10124463) ; 田原 秀晃 東京大学, 医科学研究所, 教授 (70322071)
• キーワード: Fasリガンド発現腫瘍 / 抗腫瘍作用 / アポトーシス / 好中球浸潤 / 肝癌MH134 / 抗Fas抗体 / 耐性腫瘍

研究概要

Fasリガンド発現腫瘍は免疫細胞の細胞死を誘導するため、免疫抑制が起きると報告されているが、我々の実験では用いたすべての実験腫瘍で抗腫瘍免疫が成立した(平成12年度報告)。Fasリガンド発現腫瘍による抗腫瘍免疫機構を解析するために、今年度はマウス肝癌MH134と線維肉腫MethAで詳細に検討した。
1.MH134+FasLとMethA+FasLはFACS解析から細胞表面にFasリガンドを発現しており、Fas陽性腫瘍のアポトーシスを誘導した。このアポトーシスは抗Fasリガンドで抑制された。従って、これらの腫瘍では機能を有するFasリガンドを発現していた。
2.好中球のFasリガンド発現腫瘍の拒絶における役割を調べるために、好中球に特異的な抗体(抗Gr-1抗体)を投与して好中球を除去することにより検討した。抗体を投与すると、Fasリガンド発現腫瘍の拒絶は部分的に抑制された。FACSおよび組織染色で検討すると、好中球に抗体が結合していても、必ずしも好中球は除去されずに、一部は残っていた。従って、Fasリガンド発現腫瘍の拒絶が完全に起こらないのは好中球の除去が完全でないのか、あるいは共存するマクロファージが抗腫瘍効果に働いている可能性が示唆された。
3.Fasリガンドの臨床応用の場合、腫瘍細胞全部がFasリガンドcDNAでトランスフェクトすれば、理想的な抗腫瘍効果が期待出来る。しかし、全ての腫瘍がトランスフェクトするとは限らない。そこで、Fasリガンドをトランスフェクトした腫瘍と親株の腫瘍(トランスフェクトしない腫瘍のモデル)を混ぜても、抗腫瘍効果が誘導出来るかどうか検討した。MH134+FasLをマウスに移植すると、前述の様に好中球の浸潤を伴う炎症を誘導し、腫瘍は拒絶された。次にMH134+FasLと親株のFas陰性FasL陰性MH134を混ぜてマウスに移植すると、やはり腫瘍は拒絶された。また、Fas陽性腫瘍はMH134+FasLと混ぜてマウスに移植すると、MH134よりも強い抗腫瘍効果が認められた。従って、Fasリガンドで全ての腫瘍がトランスフェクトしなくても、抗腫瘍効果が誘導され、Fasリガンドの有用性が示された。更に、Fas陽性腫瘍の場合は特に強い抗腫瘍効果が認められた。
4.我々は以前Fasリガンドや抗Fas抗体はFas発現腫瘍に対して、Fas-Fasリガンドを介する細胞死を誘導し、強い抗腫瘍効果を発現することを示した。そこで、Fas発現腫瘍にin vivoで抗Fas抗体によるFas発現腫瘍に対する抗腫瘍効果と治療に伴って出現する耐性腫瘍の性質について検討した。Fas腫瘍細胞は遺伝子導入したFas cDNAを修飾させ、Fas発現の消失或いは低下させることによって抗Fas抗体の攻撃を逃れ、再増殖することが示唆された。

研究成果

• [文献書誌] Shimizu, M.: "Fas/Apo-1 (CD95)-mediated apoptosis of neutrophils with Fas ligand (CD95L)- expressing tumors is crucial for induction of inflammation by neutrophilic polymorphonuclear leukocytes associated with antitumor immunity"Cell. Immunol.. 207. 41-48 (2001)
• [文献書誌] Saegusa, Y.: "Antitumor Effects of a New Lipophilic Platinum Compound, Trans-bis (n-valerato)(1R, 2R-cyclohexane- diamine) (oxalato) platinum (IV) in Mice"Anticancer Res.. 21. 245-252 (2001)
• [文献書誌] Takeda, Y.: "Docetaxel alone or orally combined with 5-fluorouracil and its derivatives : effects on mouse mammary tumor cell line MM2 in vitro and in vivo"Anti-Cancer Drugs. 12. 691-698 (2001)
• [文献書誌] Takeda, Y: "Correlation between timing of surgery in relation to the menstrual cycle and prognosis of premenopausal breast cancer patients"Biomed. & Pharmacother.. 55-Supplement. 133-137 (2001)
• [文献書誌] Yasuda, T.: "Clear suppression of Th1 response but marginal amelioration of autoimmune manifestations by IL-12p40 transgene in MRL-Fas^<lpreg>/Fax^<lpreg> mice"Cell. Immunol.. 210. 77-86 (2001)
• [文献書誌] Nakagawa, H.: "Growth inhibitory effects of dialyl disulfide on human breast cancer cell lines"Carcinogenesis. 22. 891-897 (2001)