研究概要 |
NO(一酸化窒素)による腸上皮細胞並びに内皮細胞の細胞骨格制御あるいは変性作用、それに伴う傍細胞間裂隙(tight junction)開大作用のメカニズムは未だ不明である。NOの大量産生は敗血症や重度侵襲下で誘導型一酸化窒素合成酵素iNOSが発現し、これにより産生されるものだが、このiNOSのpromotorの一つとしてHIF-1(hypoxia inducible factor-1)が近年注目されている.我々はヒト由来の腸上皮細胞cell lineであるCaco-2細胞を培養ならびに継代し、in vitroの系を用いて実験を行った。Caco-2細胞をchamber内で低酸素下におくと、iNOSのpromotorであるNF-κB、AP-1、HIF-1ともに活性が上昇しiNOS mRNAの発現がupregulateされるが、このとき、腸上皮細胞単層培養系において、透過性が亢進することが判明した。一方、腸内細菌の産生物である酪酸(butyrate)を投与して低酸素下で培養すると、酪酸は低酸素刺激によるHIF-1活性上昇を抑制し、この状況下で透過性を測定すると、透過性はさらに亢進した。そのメカニズムとして我々は更にITF(Intestinal Trefoil Factor)に注目した。ITFは腸上皮のバリアー機能維持に重要な役割を果たすといわれているが、酪酸を投与することにより、HIF-1活性が低下し、その結果、ITFも低下することが判明した。このことから酪酸はNOとHIF-1,ITFに作用し、低酸素下における腸上皮の透過性に密接に関与している可能性が示唆された。
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