研究概要 |
末梢血管病変の進展や虚血再灌流時の臓器障害の際に、活性化血小板から種々の化学伝達物質が放出される。これらは血中で瞬時に分解されるにも関わらず、実際には末梢血管組織や遠隔臓器に作用する現象が観察される。私たちは、活性化血小板から放出させるマイクロパーティクル(MP)がこれら化学伝達物質の輸送担体であることを明らかにしてきた。臨床病態におけるMP産生機序と生理的意義を解明する目的で以下の検討を行った。救急領域において、systemic inflammatory response syndrome (SIRS)患者で、MP産性、血小板Pセレクチン表出、血小板Å単球結合、血小板Å多核白血球結合が上昇しており、イオノマイシン刺激時にはSIRS群で有意に亢進がみられた。Pセレクチンの抑制抗体にて血小板Å単球結合と血小板Å多核白血球結合は著しく抑制された。さらに、敗血症患者において、多核白血球からの白血球ÅMP産生ならびに血管内皮細胞からの血管内皮ÅMP産生が亢進していることが確認できた。また、マイクロアレイ血流分析装置を用いて敗血症患者全血のレオロジーを検討したところ、敗血症患者では白血球が硬化しており網細血管血流ないしは血管壁内外の白血球通過が障害されている可能性が推測された。この結果から、炎症により白血球が形態的に硬化して局所鬱滞する頻度と停滞時間を増加させると同時に、白血球に接着した血小板および血小板ÅMPが白血球同士のさらなる接着を惹起させるとともに凝固機序を開始させて、結果的に化学伝達物質を局所集積させるという全く新しい巡る機序が予想された。また、静脈血栓症において、我が国における活性化protein C抵抗性(activated protein C resistance = APC-R)の原因は欧米と異なりfactor V Leiden遺伝子変異によるものであることを明らかにしたが、我々の検討ではSLE患者およびSLE以外の患者とも、lupus anticoagulantやカルディオリピン抗体を含む各種リン脂質抗体ではなく、我が国におけるAPC-Rの原因がanti-protein S抗体であることを世界で初めて報告した(British Journal of Haematology 2002, 118, 577-583、Thromb Haemost 2002, 88, 716-722)。
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