研究概要 |
腹部大動脈瘤(AAA)の発生・病態進展の機序においては、エラスチン代謝に関与するmatrix metalloproteinase (MMP)、また、その阻害因子であるtissue inhibitor of metalloproteinase(TIMP)の作用が重要視されている。これらの物質が血管壁内で相互に作用しながら動脈瘤を形成すると考えられるが、その病態はいまだ不明瞭である。本研究では、MMP,TIMPなどのAAAの発生および病態進展に関与する物質およびそれらの発現に関与するサイトカインを同定することによりAAAの病態を解明し、これらの物質の発現抑制による大動脈瘤に対する新たな治療法(TIMP遺伝子導入など)、さらには予防法の開発を目指した。 本年度は、サイトカイン投与によるヒト大動脈平滑筋細胞およびヒトマクロファージのMMP-2,9の産生能の検討、さらにラット腹部大動脈瘤モデルにおける至適エラスターゼ濃度の決定と動脈壁構造の変化の検討を行った。 培養ヒト大動脈平滑筋細胞と培養ヒトマクロファージに対し、サイトカイン(IL-1β,4,6およびTNF-α)を投与した。MMP-2,9の発現は培養液中のMMP-2,9の濃度をELISA法にて計測した。ヒト大動脈平滑筋細胞およびヒトマクロファージにおいてIL-1βおよびTNF-αの単独投与によりMMP-2の産生増強を認めた。サイトカインの投与によるMMP-9の産生増強は認めなかった。 また、ウイスターラットの腹部大動脈に対してエラスターゼ暴露を行った。エラスターゼ濃度を低容量群(10U/ml)、高容量群(20U/ml)に分け実験を行い、暴露後の腹部大動脈径の変化を経時的に計測した。エラスターゼ暴露後4週間で、高容量群は有意に血管径が拡大した。また、病理組織による検討では、拡大した大動脈の血管壁においてエラスチン線維の消失を認めた。
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