研究概要 |
腹部大動脈瘤の発生・病態進展の機序において,エラスチン代謝に関与するmatrix metalloproteinase (MMP), tissue inhibitor of metalloproteinase (TIMP)の作用が注目されているが,その病態はいまだ不明瞭である.本研究では,MMP, TIMPおよびそれらの発現に関与するサイトカインを同定し,それに基づいた新たな治療法(TIMP遺伝子導入など)の開発を目指した. まず,ヒト動脈瘤壁でMMP-2,9,12,MT-MMP-1、TIMP-1,TMP-1,2の発現を検討した.AAA症例を小径瘤,中・大径瘤に分けて検討したところ,小径瘤ではMMP-2,9,12,中・大径瘤ではMT-MMP-1,MMP-9,12の発現を認めた.また,中・大径瘤においては,MMP-2とMMP-9,TIMP-1とMMP-2,9の発現に相関を認め,MMP-2とMMP-9の協調作用およびTIMP-1がそれらの阻害因子である可能性が示唆された.また,瘤壁では外膜側を中心にマクロファージが浸潤しており,その分布と一致してMMP-12の発現増強を認めた.MMP-12とMMP-9の発現に相関を認めたことから,MMP-9とMMP-12の協調作用が示唆された.次に,培養細胞(血管平滑筋細胞、マクロファージ)を用いてサイトカイン(IL-1β,3,4,6,TNF-α)のMMP-2,9産生への影響を検討した.血管平滑筋細胞ではIL-1β,3,6、TNF-αの投与によりMMP-2の産生増強を認め,MMP-2産生への血管平滑筋細胞の関与が推測された.さらに,生体での検討のため,ラット腹部大動脈瘤モデルを作成した.Wistar ratの腹部大動脈に対し低容量,高容量のエラスターゼ暴露を行った.暴露後4週間で,高容量群は有意に血管径が拡大し,拡大した血管壁でエラスチン線維の消失を確認した.
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