ラット膵再生には膵切除後の膵外分泌不全により分泌が亢進する消化管ホルモン(CCKなど)の関与が想定される。一方、膵管狭窄や膵炎など膵の病的変化はreg蛋白や各種サイトカイン産生を誘導し、再生機転を活性化する。従って、膵再生は腸管と膵自体の因子が関与する可能性があるが、その詳細は不明である。本研究では外科的モデルを駆使して、膵再生因子を探求した。 方法 9週令雄性Wistar系ラットに、以下の手術を施行。 65%Px又は65%Lig:膵を門脈前方で結紮離断し胃葉・脾葉を切除(Px)又は残置(Lig)。 65%Sham:同部位の剥離のみ。 80%Px又は80%Lig:胃葉・脾葉と十二指腸乳頭肛側の十二指腸葉を結紮離断し切除(Px)又は残置(Lig)。 80%Sham:同部位の剥離のみ。 各群を通常粉末飼料(N群)又はこれに30分の1のパンクレアチンを添加(P群)して飼育。術後8日目、また80%群では21日目にも、残膵相当部分の湿重量を測定し、組織学的検討を施行。膵湿重量は、体重で補正後N・P両群のSham群の平均値を基準に再生率を評価。 結果 膵湿重量は8日目には65%、80%共にPx・Lig両群で有意に増大(Px/Lig/Shamの再生率は65%・N群で29±7/14±10/4±6、80%・N群で24±4/35±13/5±5%)。飼料の影響は無し。21日目のPx/Lig/Shamの再生率は、N群で54±8/11±8/-13±4%とPx群でのみ有意に増大。飼料の影響は無し。組織をインスリンの免疫染色とPDX-1のin situ hybridizationで検討したが、残膵部分のインスリン、PDX-1発現は各群間に著明な差異無し。Lig群結紮葉で膵管上皮にPDX-1が瀰漫性に発現し、インスリン陽性細胞が散見された。なお、Sham群で実測した残膵部分の割合は、65%で36.4±12%、80%で19.6±0.7%。(数値は平均±SE。p<0.05で有意。) 結語 本実験における飼料の影響はわずかで、膵外分泌不全の関与は少ないことが示唆された。一方、8日目と21日目の結果が異なることは非常に興味深く、膵切除後の膵再生機序を解明する手がかりとなることが期待される。
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