研究概要 |
癌進展には血管新生が必要不可欠であることが従来より指摘されてきたが、その成立には様々な分子が関与していることが知られている。線維芽細胞増殖因子(fibroblast growth factor : FGF)ファミリーは血管新生作用を示すことが知られているが、我々はアンドロゲン感受性株からアンドロゲン誘導遺伝子としてFGF8 variant : FGF8fを登録した(GenBank登録AB014615)。FGF8fは食道癌組織で非癌部より高発現し、その高発現群は予後が悪いことを見い出した(Tanaka et al. Dig Dis Sci 2001)。 また我々は多血管性肝癌臨床検体から、その高発現遺伝子としてTie2リガンドAngiopoietin-2をクローニングし(GenBank登録AB009865)、動物モデルを用いてその血管新生への関与を証明した(Tanaka et al. J Clin Invest 1999)。本研究では、まずTie2を発現している血管内皮細胞にAngiopoietin-2を作用させると、Tie2とp85PI3K, Grb7との結合が増強し、survivin発現が亢進することを確認した。血管内皮細胞はAngiopoietin-2により細胞増殖能には変化を示さなかったが、アポトーシス抵抗性を獲得した。soluble Tie2遺伝子導入によりAngiopoietin-2シグナル伝達系は抑制され、マウス腫瘍モデルにおいて肝細胞癌のtumor dormancyを誘導することを見い出した(Tanaka et al. Hepatology in press)。 さらに我々は新規血管新生関連因子CCNファミリーに属する新しい癌特異的遺伝子WISP1vを臨床検体からクローニングした(GenBank登録AB034122)。CCNファミリー蛋白はIGF結合ドメイン、von Willebrand factor type C(VWC)ドメイン、thrombospondinドメイン、cysteine knotドメインから構成されているが、WISP1vはVWCドメインを完全に欠損していた。遺伝子導入細胞の解析により、WISP1vが細胞浸潤能を増強することを見い出している(Tanaka et al. Oncogene 2001)。さらに、同じファミリーに属するWISP3にドメイン欠損体があることを見い出し(GenBank登録AB075040)、現在その解析を進めている。 本研究により臨床検体から新たな血管新生因子群を同定し、そのシグナル伝達抑制はtumor domancyを誘導することが明らかとなり、癌治療への応用を示す重要な成果が得られた。
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