研究概要 |
【目的】手術侵襲に伴う免疫細胞機能の変化と術後感染症との関係についての研究結果を報告する。 【対象と方法】2000年4月から12月までに当科で経験した消化器癌手術症例43例を対象とした。術前および術後1日目と7日目の3ポイントで採血し、末梢血単核球を分離した後、CD4陽性T細胞の細胞内産生サイトカイン(IFNγ,IL-2,-4,-10)および単球表面抗原(HLA-DR,CD16)を蛍光標識し、flow cytometryを用いてそれらの陽性細胞比率を測定した。術後感染症を合併した22例をA群、感染症を認めなかった21例をB群として分類し、これらの免疫学的指標との関係について比較検討した。 【結果】術前のIFNγ産生細胞比率はA群で32.1%、B群で23.5%とA群で高値であり(p<0.05)、IL-4産生細胞比率はA群で13.6%、B群で18.3%とB群でやや高値であった(p<0.05)。一方、両群とも術後1日目にIFNγ産生細胞は減少したが、B群では7日目にほぼ術前値に回復したのに対し、A群ではさらに減少傾向を示した。IL-4産生細胞はB群では術後徐々に減少し続けたが、A群では術後1日目に減少し、7日目には増加した。IL-2およびIL-10産生細胞の推移に関しては両群間に明らかな差を認めなかった。単球のHLA-DR発現率は両群とも術後1日目に一過性の低下を示し、B群では7日目にほぼ術前値に回復したがA群では回復遅延傾向を示した(p<0.05)。CD16発現も術後一過性に低下したが、A群では術前から術後1日目の減少率がB群と比較し有意に大きかった。 【結論】担癌患者においては術後感染症の合併に関与する免疫学的変化の一部が術前からすでに発生しており、このような変化はsingle cell単位で検討する必要がある。周術期のCD4陽性T細胞サブセットおよび単球表面抗原の変動は術後感染症の予測指標として有用であると考えられた。
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