研究概要 |
【目的】生体侵襲時における細胞性免疫能と血清サイトカイン濃度の変化について検討する。 【研究1】消化器癌手術症例を対象に術前後に採血し、ヘルパーT(Th)細胞と単球をそれぞれ単離した。細胞内サイトカイン測定法を用いてTh1/Th2細胞比を測定したところ、(1)癌患者は健常者と比較し、術前からすでにTh1細胞比の減少とTh2細胞比の増加を示していた、(2)Th1細胞比は術後1日目に著明に減少した、(3)術後感染症を合併した症例(感染群)では術後7日目までTh1細胞比の減少が持続していたが、非感染群では7日目にほぼ術前値に回復していた。また、単球におけるHLA-DR発現率を検討したところ、(1)術前の発現率は癌患者と健常者で差を認めなかった、(2)HLA-DR発現率は術後1日目に著明に低下した、(3)非感染群では術後7日目にはほぼ術前値に回復したが、感染群では回復遅延傾向を示した。一方、感染群と非感染群で血液中のTNF-α,IL-6,IL-10,IL-12濃度の推移には差を認めなかった。 【研究2】敗血症患者を対象に、ω-3系脂肪酸を豊富に含有する経腸栄養(EN)施行例(ω-3rich群)とω-3系脂肪酸を微量しか含まないEN施行例(ω-3poor群)の2群に割り付け、Th1/Th2バランス、単球HLA-DR発現率、血清IL-6濃度の推移について検討した。その結果、ω-3rich群ではEN開始1週間後にTh1細胞比および単球HLA-DR発現率の有意な増加が認められたが、ω-poor群ではこれらの免疫指標の改善はわずかであった。一方、IL-6濃度の推移は両群間で有意な差を認めなかった。 【結論】(1)侵襲により惹起される免疫応答能と血清サイトカイン濃度の変動は相関しない。(2)ω-3系脂肪酸投与による栄養学的介入により侵襲時の細胞性免疫能を改善しうる可能性が示唆された。
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