研究概要 |
【目的と方法】5-FU代謝酵素であるThymidylate synthase (TS), Dihydropyrimidine dehydrogenase (DPD)の活性は5-FUに対する感受性あるいは予後推測因子として注目されている。しかし、これらの酵素活性が5-FU投与により変化してその効果に影響を与える可能性は検討されていない。そこで、(1)臨床的検討として、術前にUFT(5-FUの前駆体とウラシルの合剤)を2週間以上投与した胃癌患者の投与前の生検と投与後の切除標本から腫瘍のTS, DPDのmRNAを定量測定し、組織学的効果との関連を検討した。次に、(2)基礎的検討として、胃癌培養細胞に5-FUを接触させて経時的にTS, DPD, thymidine phosphorylase (TP)の代謝酵素活性を測定し、薬剤感受性(細胞増殖抑制効果)との関連を検討した。【結果】(1)臨床的検討では、UFT投与前の腫瘍DPD mRNA低値の症例で5-FUの組織学的効果が高かった。しかし、効果が高くても、UFT投与後の腫瘍DPD mRNA値が投与前より大きく上昇する症例も存在した。TS mRNAの推移は組織学的効果と関連しなかった。(2)基礎的検討では、5-FU接触中のTS total/TS阻害率の上昇またはDPD持続低値が高感受性と関連していた。しかし、TP活性値は薬剤感受性に余り関連しなかった。【結論】本研究により5-FUの効果予測がより正確になり、補助化学療法の適応症例の選択に寄与することが期待される。一方で本研究は、胃癌細胞のTS, DPDのmRNA値あるいは酵素活性が5-FU投与により変化することを示した。胃癌細胞の5-FU感受性機構は細胞ごとに異なるが、5-FU接触によるこれら代謝酵素活性の変化は5-FUに対する感受性や長期投与時の耐性に関与する可能性もあると思われる。
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