研究概要 |
我々はメラノーマの転移能の異なる細胞亜株間のdifferential screeningを行い、両者間で発現の異なる様々な遺伝子を単離、精製した。ほとんどは既知のものであり、転移関連遺伝子として既に報告のあるものもあったが、いくつかは新規に単離されたものであった。このうち新規遺伝子TI241は転写因子LRF1,ATF3等と相同性を示し、低転移細胞株への遺伝子導入で、その転移能を上昇させ、転移巣の細胞での発現が上昇していた。臨床材料である大腸癌の臨床材料を用いた研究では、血管浸潤を示す病変ではこの遺伝子の発現が高く、血行性転移の予後を占う指標としての重要性が示唆された。また、これに対するアンチセンスオゴヌクレオチドを用いた研究では、その形態変化及び運動性の低下、細胞接着能の低下及び浸潤能の低下が実験的に証明されており、TI241は転移巣での増殖の他、転移の他のステップにも関与していると考えられた。特に接着性の低下によるアポトーシス誘導が悪性リンパ腫などでは証明されており、同様の機序が働いていると考えられた。またヌードマウスを用いた実験でも、皮下での細胞増殖を抑え、生存を有意に延長したことから、実際の病態においても重要な役割を演じていると考えられた。単離されたもう一つの遺伝子であるTI227は他の遺伝子と相同性を示さないものであり、やはり転移能の異なる大腸癌細胞亜株間で発現に差を示し、血行性高転移亜株に特に強い発現を示した。この新規遺伝子についてそのヒトでの対応遺伝子を単離解析するとともにその相同性の高い部分から実際の翻訳部位を推定し、さらにgenomic DNAを単離してその5'端上流の解析を行った。この遺伝子に関しては遺伝子診断による転移予測、予後判定への応用が期待されている。TI227,TI241は転移に関与するとともに、転移巣の多くがそうである薬剤耐性にも関与していることが示唆された。
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