研究概要 |
1.雑種成犬を使用し,S状結腸を切断し,その口側3cmの結腸の漿筋層を利用する.結腸間膜の血管だけを温存し,Denervationの状態とする.粘膜を除去し0.5cm口側の結腸に3cmの漿筋層片を縫着する群(1群).また,利用する3cm結腸は切断せず長軸方向に切開を加え粘膜除去をし,漿筋層のみとし飜転するように口側の結腸に漿筋層を縫着する群(2群).を作製し,外肛門括約筋のみを残し超低位前方切除を行った(肛門管破壊)後,漿膜筋層縫着腸管と吻合する.対象として,平滑筋を移植せず腸管を吻合するモデルを作製した(3群). 2.3群間において,排便状況の違いを観察したが,漿筋層のみを飜転するように口側の結腸に漿筋層を縫着する群において,排便回数の減少を認めた. 3.3群間において,内圧の差をみたところ,漿筋層のみを飜転するように口側の結腸に漿筋層を縫着する群において,内圧の良好な上昇を認めた. 4.開腹し,移植平滑筋の変化を機能面と組織学的面より検索したが,平滑筋の残存が認められ,これが有効に機能しているものと考えられた. 5.以上1, 2, 3, 4,の結果より平滑筋移植が,肛門括約筋の代用と成りうることが証明された. 6.臨床例に応用し,肛門管の検査結果では,肛門管静止圧は33.4±5.0mmHg(mean±SE),随意圧は100.2±21.1mmHgであった.形成肛門管長は3.6±0.4cmであり,それぞれ良好な結果が得られた.排便状況の調査結果術後当初は,便性状によっては睡眠中に便失禁を認めることがあるが,残存括約筋のリハビリを行うことにより失禁はほぼ消失した.術後3年以上経過した症例では,排便状況は2〜3回/日で,便意も認識できた.また,全例とも再発の徴候は,認められていない. 7.この術式は患者の新肛門管に対する理解と日常生活における積極的な努力が必要であが,順調な社会復帰を遂げることが可能であった.また,腸管を用いた肛門の再建であり,他の骨格筋等を用いた再建に比し簡便であった. 以上の結果より,この術式は肛門温存の可能性を広げるものと考えられた.
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