研究概要 |
転写制御因子であるperoxisome proliferator activated receptor-γ(PPAR-γ)はretinoid X receptor(RXR)と二量体を形成し、それぞれのリガンド結合に依存してPPAR応答性部位と呼ばれる特異的なDNAA塩基配列に選択的に結合し、おもに脂肪細胞やある種の癌細胞の分化に関与する閣内受容体として知られている。昨年度は、膵癌や大腸癌で高率にPPAR-γ蛋白が過剰に発現しているが、逆に胃癌では発現が低下していること、またPPAR-γの特異的リガンドであるthiazolidinedione(TZD)処理によりcell cycle調節因子であるp21Waf-1蛋白が強く誘導され、cytostatic(G1 arrest)に癌細胞の増殖が抑制されたことを報告した。今年度は、TZDによる癌細胞の増殖抑制と分化誘導、さらには癌細胞間の接着能の推移と転移能につき、詳細を研究した。 [材料と方法]代表的なヒト膵菅癌細胞株であるBxPC-3および大腸癌細胞株HT-29(これらはいずれもp53 statusがmutant typeである)を使用した。これら細胞株に対して、TZD処理することで、分化誘導のマーカーであるE-cadherin, differentiation-related gene-1(Drg-1)の発現の推移を遺伝子および蛋白レベルで、またE-cadherin発現増強に伴って推移すると思われるβ-cateninの蛋白量や細胞内局在の異常(主に細胞質内での蓄積と核内移行)の有無を蛍光抗体法で詳細に観察し、核内でβ-catenin遺伝子の下流にあるc-Myc、MMP-7, cyclin D1遺伝子の推移についても観察した。また、浸潤能をマトリゲルinvasion assay法で評価した。 [結果]BxPC-3およびHT-29癌細胞はいずれもTZDを処理によりE-cateninおよびDrg-1の発現が著増した。そして、蛍光抗体法では、TZD処理前ではβ-catenin蛋白は細胞膜よりも細胞質内および核内に局在していたが、TZD処理ではE-cadherinの細胞膜での発現増強に伴ってβ-catenin(蛋白量には変化なし)も局在が細胞膜へ移行した。そして、癌細胞間の接着脳は亢進し、マトリゲルinvasion assayでも浸潤能は低下した。しかし、今回の実験でc-Myc、MMP-7, cyclin D1遺伝子の推移には大きな変化がみられなかった。 [まとめ]PPAR-γ発現癌細胞に対してTZDは、分化誘導を介して細胞間接着脳の亢進を惹起し、cytostaticな増殖抑制と浸潤抑制効果を示した。
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